汚れたグラスに泡が付着するのはなぜだろう?

 ビールグラスはきれいに洗っていないと、ビールを注いだ時に泡がガラス面に付着します。これって何でだろう?考えてみました。


1 気泡核の生成
 球形の泡がビールの中に生まれる時のエネルギーは式(1)となります(参考:ビールの泡の大きさはいくつだろう?)。一方、グラスに付着して生まれる気泡のエネルギーは式(2)になります。式(3)は補正係数です。γはビールと空気間の表面張力(30mN/mくらいかな?)、Θはビールとグラス面の接触角、グラス面は凹凸がない滑らかな面とします。また接触角の定義は図にあるように、流体内部の角度であって気泡内部じゃないことに注意です。∆Gは液体から気体に変化した場合の単位体積あたりの自由エネルギー変化量で、ビールの栓を抜く前の圧力(すなわち炭酸ガスの飽和圧力)-ビールの栓を抜いた後の圧力(すなわち大気圧=1気圧)になるようです。常温で炭酸ガスを溶け込ませるのには約2.5気圧必要と仮定すると、△G=2.5-1=1.5気圧 ~ 1.5x10^5[Pa・m^3]となります。cos^3θ は cosθの3乗ですが、うまく書けなかったのでこう表現しました。
 G=-(泡の体積)・△G+(泡の表面積)・γ        式(1)
 G=[-(泡の体積)・△G+(泡の表面積)・γ ]⋆補正係数   式(2)

     補正係数= (2+3cosθーcos^3θ)                     式(3)


  グラスがきれいだとビールとグラス面の接触角は10~30度くらい、汚れていると接触角は大きくなります。付着物や汚れ方によって接触角は変わるので、いくつになるかは不明ですが、とりあえず90度としておきましょう。ビールの中に発生した泡と、きれいなグラスに付着した泡、汚れたグラスに付着した泡のエネルギーをグラフに描くと図のようになります。横軸は泡の半径で、例えば1e-6[m]が1[um]=1mmの1/1000です。ビール中に発生するのと、きれいなグラスに付着した泡ではエネルギーに差がないようです。エネルギーは低い方が安定なので、同じ半径の気泡なら汚れたグラス面に付着するのが一番エネルギーが低くなります。例えば半径1um(1e-6m=1mmの1/1000)の気泡の場合には、グラス面に付着しないと2.5e-13[J]、付着すると1e-13[J]なので、グラス面に付着した方がエネルギーが半分ですみます。グラスがきれいだと、付着しても付着しなくてもエネルギーは変わらないようです。つまり付着と離脱は自由自在です。気泡が生まれる時、汚れた面があるとそこから気泡核ができやすいということになります。気泡核は1um以上だと、周囲に溶けている二酸化炭素を吸収して成長します(参考:ビールの泡の大きさはいくつだろう?)。汚れたグラスに泡が付着しやすいのはこういった理由のようです。

参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8%E7%94%9F%E6%88%90


2 泡がグラス面に接触したら?
 汚れたグラスに泡が付着する現象として、もうひとつあると思います。泡は流れにのって移動しているので、グラス面に衝突した泡は状況によっては付着するはずです。そこでグラス面にちょっとだけ接触するように泡を配置して挙動を計算してみました。OpenFOAMの自由表面ソルバー(interFoam)を使いました。左はグラスがきれいな場合(接触角10度)、右はグラスが汚れている場合(接触角90度)です。きれいな場合には、泡は次第にグラス面から離れていきます。浮力の影響でしょうか? 一方汚れているグラスには泡が引き付けられるように付着していきます。引き付けられ方にちょっと違和感がありますが、これはVOF法という計算モデルのせいかもしれませんが、汚れていると近くに流れてきた泡が付着すると考えられます。


3 泡の成長も考慮してみよう
 泡は流れにのって移動しながら、周囲に溶けた二酸化炭素を吸収して成長していくはずです。そこで移動・成長を考慮して泡の挙動を計算してみました。泡は最初は30umですが、時間とともに成長していきます。流れに乗って上昇しますが、グラスが汚れていると付着します。一方きれいなグラスには付着しません。計算では、グラスに付着した泡も上昇を続けますが、汚れが不均一だったり、凹凸があったり、前進後退接触角のヒステリシスがあったり、流れが弱かったりすると、付着した泡は上昇せずにとどまることでしょう。

 底面には小さな気泡核を配置し、また流れにのった30umの泡が成長しながら移動する様子を合わせて計算しました。汚れたグラスに付着した気泡核は半球状に成長しますが、きれいなグラスに付着した気泡核はすぐに離れて球状に成長しています。成長は面積に比例すると仮定しているので、付着していない泡の方が大きく成長し、流れにのって上昇し始めます。汚れたグラス面には気泡が付着したままです。グラスはきれいに洗ってからビールを注ぎましょう。

麦酒物理研究所

麦酒物理研究所 ーBeer Physics Reserch Center- フリーのシミュレーションツール(OpenFOAM)をつかっていろいろと解析してみます。初めてのホームページ作成なので、なかなかはかどりませんが、気長に更新していきます。勘違い、間違いがあるかもしれません。ご意見、コメント歓迎します。

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