ビールの泡のシミュレーションモデル1-DEM-

 注意:今回はかなりマニアックです。

 ビールの泡の挙動を解析するにはどうすればいいんだろう・・・・10年ほど前から考えて、いろいろと試行錯誤を繰り返してきました。ここではその過程を書いていきます。


まずは計算モデルで思いつくのは、当時(2000年~2010年頃かな)はやっていたDEM(Disceate Element Method)。 これは流体と粒子の連成解析。泡はタンパク質でおおわれているので結構堅そう。合一(合体)しないだろう・・個数も多いから大きな動きが計算できればいいので衝突は気にしなくてもいいだろう。そうなら泡は衝突を無視した粒子と考えて計算してもよさそうだ・・・。衝突を無視した粒子挙動なら簡単に計算できそうだ!

 調べてみるとOpenFOAMにもicoUncoupledKinematicParcelFoam というソルバーがありました。ただしこれはすでにわかっている流れ場の中で粒子がどう動くかを計算するソルバーでした。つまりこのソルバーは流れの中の粒子(泡)の挙動を計算するもので、いわゆる弱連成ソルバーでした。計算したいのは泡の上昇で対流が起こり、その対流に乗って泡が動くという現象で、ちょっと複雑。いわゆる強連成問題なので、そう簡単には計算できそうもない・・・・と思ったところペンギンさんのホームページにヒントがありました。これを参考にして、流体と粒子の強連成シミュレーションプログラム(icoCoupledKinematicParcelFoam)を開発しました。(ペンギンさんは正しくはPENGUNITISさん)

http://penguinitis.g1.xrea.com/study/OpenFOAM/particle/particle.html

 解くべき物理方程式は・・・・かなりマニアック・・・・△とか▽といった不思議な記号が出てくる数式で記述されます。1個目の式は流れを計算するナビエストークス方程式。ちなみにこれを解析的に解けたら1億円の賞金がもらえるそうです。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AC%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%A0%E6%87%B8%E8%B3%9E%E5%95%8F%E9%A1%8C

 2つ目の式は粒子(気泡)動きを計算する、高校物理でならったニュートンの運動方程式 。

 泡はグラス下の決まったところから、きまった時間間隔で発生させるのでいいだろう。計算結果はこんな感じ。今だったらMPPICFoamで計算できるけどicoCoupledKinematicParcelFoamの方が計算時間は速いのでいいかな(実際100倍くらい違いました。)

 そのうち暇になったらこの計算のチュートリアルを作ります。

 ギネスカスケードはとりあえず計算できたけど、粒子数が少ないので増やしてみた。グラス22.5度(グラスの1/16の領域)に約13万個の粒子を投入して、家のPCで1週間計算した結果がこれ。気泡の直径は60um、粘度2mPa・sでの計算。

 次にギネスとピルスナーで比較してみた。ギネスは窒素で泡を作っているので径が小さいけど、ピルスナーは溶解度の高い二酸化炭素の泡なので大き目。ギネスビールの泡は直径60μm、ピルスナーは100μmで計算してみました。ピルスナーの気泡は大きいので浮力が強く、上昇速度も速いです。実際ピルスナーは100μm~数mmの泡ができているようなので、もう少し速く、そしてばらつきもありそうです。ちなみに粘度はどちらも2mPa・sとしています。

 動画を見るとピルスナーでもカスケードが起こることがわかりますね。ピルスナーは現象が速いのと泡がすぐ壊れてしまうのでなかなか認識できないのでしょうか?ギネスは泡が壊れにくく、現象もゆっくりだし長時間カスケードしているので認識されやすいのかなと。


麦酒物理研究所

麦酒物理研究所 ーBeer Physics Reserch Center- フリーのシミュレーションツール(OpenFOAM)をつかっていろいろと解析してみます。初めてのホームページ作成なので、なかなかはかどりませんが、気長に更新していきます。勘違い、間違いがあるかもしれません。ご意見、コメント歓迎します。

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